
何事によらず、本物を見ていると偽物がわかるといわれるように、日本酒の世界もまた同だと思います。 よい酒を覚えてしまうと、悪い酒はすぐにわかるようになります。
専門家は、自分の頭の中に酒に対する物差しを持っていて、それに比較して優劣を決めていきますが、一般の人でも要領は同じで、今まで一番気に入ったスタイルの酒を覚えておかれるとよいと思います。それに比較して考えると、欠点がなんであるかわかりやすくなるからです。香りは あくまでも澄んでいることが第一条件で、秘めやかなものほど飲み飽きがせず、含んでから旨味とともに香りが広がるようなものが最高と思われます。 香りに老香があったり、濁っているものは問題外で、強すぎるものは すぐに鼻につくから良しとはしません。味である旨味は強すぎてもいけませんが、薄っぺらで何も感じさせないようでもいけません。旨味がさわりなくふくらみながら咽を滑るようなら最高です。
酒はバランスが大切といわれるように、甘・辛・酸・渋・苦 が、調和されて初めて味が調ったといわれます。従って、このうちのどれを感じても、さわりない含みとはいえず、決して”旨いなあー”と思わせないから不思議なものです。
酒本来の旨味とは、米の甘味ですが、それを甘味に感じさせず、旨味に昇華させるところに神秘性があります。風味である香りは、酒の体臭として切り離して考えることはできず、旨味とともに広がるものであってこそ最高です。
咽ごしは旨味を感じさせたうえで、すんなりと滑るものがよいものです。味がキュッと引き締まって消えていくようなものを、切れ上がりが良いと表現しますが、夜空に咲く花火のように完全に己を主張したうえで、何事もなかったように消え去ることこそ酒の命です。なぜなら舌や咽に味が残っているようでは、次の盃に手が伸びないばかりか料理の味さえそこなうからで、後口の綺麗さも欠くことのできない条件のひとつであります。
含んだ後に旨味とともに香りが広がり、酒本来の旨味が珠のごとく咽を滑った後で湧き上がる味の余韻の素晴らしさこそ、人間と酵母の世界が造り上げた芸術でなくてなんでありましょうか。
酒質を知る方法としては、同じクラスの酒を何種類か並べて飲み較べて見ることが大切です。酒はふたつとして同じものはなく、必ず個性の違いがわかるはずです。
もし、欠点のある酒が見つかったら、良いと思える酒と並べて同量の氷を浮かべ、とけたら口に含んでみてください。その差は歴然とするはずです。造りのよい酒は氷が溶けても欠点は現われませんが、欠点が見られた酒は、その正体があらわになります。